私が初めて自分の髪の異変に気づいたのは三十代半ばのシャワータイムでした。排水溝に溜まる髪の量が明らかに以前より増えており手櫛を通すたびに数本の毛が抜けてくる現実に背筋が凍るような思いをしたのを覚えています。最初は市販の育毛シャンプーやトニックを試してみましたが効果は一向に現れず焦りだけが募っていきました。インターネットで情報を検索するとAGA専門クリニックの広告が大量に出てきましたが当時の私にはどうしてもあのような煌びやかで高額そうな場所に行く勇気が持てませんでした。そこでまずは近所にある昔ながらの皮膚科に相談してみることにしました。そこは子供の頃からアトピーや虫刺されでお世話になっていた先生がいる場所で信頼できるという安心感があったからです。受付で「今日はどうされましたか」と聞かれた時「抜け毛が気になって」と答えるのは少し勇気が必要でしたが受付の方は事務的に対応してくれたのでホッとしました。待合室には年配の方やお子さん連れが多く自分が薄毛の相談に来ていることを悟られないかドキドキしながら順番を待ちました。名前を呼ばれて診察室に入ると先生はいつもと変わらない穏やかな口調で迎えてくれました。私が悩みを打ち明けると先生はマイクロスコープなどを取り出すことはなく私の頭皮を目視し髪を軽く引っ張ったりしながら診察を進めました。「これは典型的な男性型脱毛症だね」と先生はあっさりと診断を下しました。そして机の引き出しからAGA治療薬のパンフレットを取り出し薬の仕組みや副作用について淡々と説明してくれました。専門的な検査機器などはありませんでしたが経験豊富な先生の「大丈夫、薬で止められるよ」という一言には不思議な説得力があり迷っていた私の背中を押してくれました。処方されたのはフィナステリドという成分の内服薬でした。先生からは「即効性はないから最低でも半年は続けてみて」と念を押されました。診察時間は十分程度と短いものでしたが余計な勧誘や高額なコース契約の話などは一切なく必要なことだけを端的に伝えてくれるスタイルは私には合っていました。薬代は全額自己負担でしたが専門クリニックの相場よりは少し安く抑えられていたように思います。何より通い慣れた場所で治療を始められたことで「特別な病気になってしまった」という悲壮感を持たずに済んだことが大きかったです。
抜け毛の悩みで皮膚科を受診した私の体験談